ケース5被相続人が公正証書遺言による遺言書を作成し、その後亡くなり相続が発生したが、遺言書の内容に土地を分筆したうえで相続をするよう指定がある場合
Aの相続人は長男(B)、二男(C)、長女(D)の3名で、Aは生前に公証役場にて遺言公正証書を作成し、遺言書の内容には1筆の土地(300㎡)については分筆をしたうえで、東側の土地150㎡をB、西側の土地150㎡をCに相続させ、預金1,000万円についてはDに相続させるという記載がある場合。
相続内容について
相続財産
土地(1筆) 約2,000万円
預金 約1,000万円
法定相続分
長男(B) 3分の1
二男(C) 3分の1
長女(D) 3分の1
相続手続きのいきさつ
Aさんは、配偶者がいたものの数年前に既に亡くなっており、相続人は子3名となりますが、保有している財産は土地が1筆のみと預金が1,000万円であったたため、当時相談した司法書士からの勧めもあり、相続人全員がもめることがないように公正証書による遺言書を作成しました。
遺言公正証書の内容は、土地(300㎡)については2筆に分筆したうえで東側の土地150㎡をB、西側の土地150㎡をCに相続させ、預金1,000万円についてはDに相続させるというものでした。また、遺言執行者としてBを指定しました。
その数年後、Aさんはお亡くなりになり、相続が開始したため、BさんはAさんの遺言公正証書に基づき、遺言執行者として相続手続きを進めようとしましたが、土地の分筆についてどのように進めればよいのか分からなかったため当事務所にご相談にいらっしゃいました。
遺言公正証書に基づいて土地1筆を2筆に分筆したうえで相続登記をするにはどのように進めればよいか?
1.相続人調査
相続手続きをする際にまず行うことは、相続人調査となります。
遺言公正証書がある場合には相続人調査をする必要がないと思われている方が多いですが、相続人調査は必ず行ってください。
令和元年7月1日民法改正により、遺言執行者はその就任後にすべての相続人に相続開始と自身が遺言書に基づき遺言執行者に就任したことを通知する義務があります。その通知義務を怠ったことにより相続人が損害を被った場合には債務不履行もしくは不法行為による損害賠償請求権を行使される可能性がございます。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本等を収集することにより、相続人を特定します。
稀にですが、相続人全員が把握していない別の相続人がでてくることもありますので、必ず相続人調査は行わなければなりません。
2.相続財産調査、遺産目録の作成・郵送
遺言執行者は、不動産、預金、有価証券、債務等の相続財産(プラスの財産、マイナスの財産)について、どのようなものがあるか調査を行い、相続財産について目録(遺産目録)を作成する義務があります。
調査の結果、Aさんのマイナスの財産については特に何もありませんでした。また、プラスの財産についても、遺言公正証書に記載されている財産以外のものは特にありませんでした。
当事務所で相続財産調査及び遺産目録を作成し、相続人全員に対し郵送させていただきました。
3.土地の分筆登記手続き
遺言公正証書の内容に基づき、土地の分筆登記を進めるにあたり重要なのが遺言公正証書に添付されている土地の測量図となります。この土地の測量図を基に当事務所で提携している土地家屋調査士に土地の分筆の登記をしてもらい、東西2筆の土地に分筆された後、東側の土地150㎡をBさん、西側の土地150㎡をCさん名義にそれぞれ相続登記をさせていただきました。
なお、公正証書による遺言書では土地の測量図が作成されていることが一般的ですが、自筆による遺言書(自筆証書遺言)の場合には、土地の測量図を添付することなく単に「土地を東西半分に2分割して相続させる」といった内容の遺言書が作成されていることも稀にあります。そのような遺言内容を記載されると分筆ラインが明確となっていないため、相続人全員による遺産分割協議が必要になるケースもあるため注意が必要です。遺言書で土地を分筆したうえで相続させたい場合には、必ず公正証書による遺言書を作成することをお勧めいたします。
■4.預金の相続手続き
Aさんの相続財産である預金1,000万円についても、当事務所にて銀行で預金の相続手続きを行い、Dさんに1,000万円を相続していただきました。
注意点
① 遺言執行者に指定された者または家庭裁判所に選任された者は、遺言執行者に就任した際には直ちに任務を開始する義務があります。
② 遺言執行者は就任後、すべての相続人に相続開始と自身が遺言書に基づき遺言執行者に就任したことを通知する義務があります。
③ 遺言執行者は、相続財産について遺産目録を作成し、相続人に交付する義務があります。
④ 遺言執行者が遺産目録に記載するのは遺言書に記載されている財産のみではありますが、遺言書に記載されていない財産が他にもある場合には、後日、個別に遺産分割協議をしたり、遺留分侵害請求権の対象になる可能性もあるため、きちんと相続財産調査を行うことをお勧めいたします。
⑤ 遺言書の中に「前各条に記載の財産を除き、その余に遺言者の有する財産全部(現金、その他動産すべて)をBに相続させる。」という条項が記載されていることがよくありますが、遺言書に具体的に記載されていない財産が思いのほか多かったということもございますので、相続財産調査をきちんと行うことが重要となります。
⑥ 土地の分筆をしたうえで相続させるという内容の遺言書を作成する場合には、土地の分筆ラインを明確にしなければ、相続開始後に相続人間で紛争になることもあるため、必ず土地家屋調査士等の専門家に土地の測量図を作成していただいたうえで遺言書を作成してください。
⑦ 土地の分筆をしたうえで相続させるという内容の遺言書を作成する場合には、相続開始後に相続人間で紛争になることもあるため、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言にて作成することをお勧めいたします。
⑧ 相続人が「相続放棄をする」とよく言われますが、家庭裁判所に相続放棄の申立をして受理されないと、それは相続放棄にはあたりません。後日、借金があることが判明した場合には支払いをする義務を負うことになりますので、借金を負いたくない場合には必ず家庭裁判所に相続放棄の申立をしてください。
⑨ 相続放棄については、自己のために相続開始があったことを知った日から3か月以内という期限があります。原則として、3か月を経過すると相続放棄ができなくなりますので注意が必要です。
⑩ 遺言書がある場合でも相続放棄をすることは可能です。